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メンダコ♀🔥

20

Rhiannon/りあのん

1

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目を閉じ──開けた。すると私はアレフを見た。 私は今、物語の言いようのない中心に到達する──ここに、作家としての私の絶望が始まる。 [...] 踏み段の下、右へ寄ったところに、ほとんど耐えがたい光を放つ、小さな虹色の球体を見た。最初はそれが回転していると思った──のちに、その動きは内部に閉じ込められていた眩暈のするような光景が生み出す錯覚にすぎないと理解した。アレフの直径は二、三センチほどだろうが、宇宙空間はそこに、寸分の減じることもなく存在した。いかなるものも──例えば鏡の中の月──それは、無限の存在だった。というのも、私はそれを宇宙のあらゆる地点において、はっきりと見たからである。 人で満ちた海を見た。朝と夕を見た。アメリカの群衆を見た。黒いピラミッドの中心にある、銀色の蜘蛛の巣を見た。崩壊する迷宮を見た──それはロンドンだった。私を鏡のように凝視する、果てしなく続く無数の目を見た。地上のあらゆる鏡を見たが、いずれも私を映さなかった。ソレール通りの裏庭に、三十年前にフライ・ベントスの玄関口で見たのと同じ、敷瓦を見た。房、雪、たばこ、金属の筋、蒸気を見た。膨らんだ赤道砂漠とその一粒一粒の砂までを見た。インヴァネスで、決して忘れることのない女を見た。荒々しい髪、誇り高い身体を見、胸を蝕む癌を見た。かつて木のあった、歩道の渇いた土のうえにできた、円い跡を見た。アドロゲの一軒の別荘を見た。フィレモン・ホランド訳のプリニウスの、最初の英訳書の一冊を見た。同時に各頁の各文字を見た──子供のころ、私は閉じた本の文字が夜に混ざり合って、失われないことに驚嘆したものだ──。夜と昼が同時に存在するのを見た。まるで、ケレタロの夕暮れが、ベンガルの薔薇の色を反映しているかのように見えた。誰もいない自分の寝室を見た。アルクマールの戸棚の中で、二つの鏡の間に置かれ、無限に増殖する地球儀を見た。鬣をなびかせる馬たちを、夜明けのカスピ海の浜で見た。手の繊細な骨格を見た。戦いの生存者たちが絵葉書を送っているのを見た。ミルザプールのショーウィンドウに、スペインのカードが置かれているのを見た。温室の床に斜めに落ちるシダの影を見た。虎、ピストン、バイソン、波濤、軍隊を見た。地上に存在するすべての蟻を見た。ペルシャのアストロラーベを見た。机の引き出しの中で──その筆跡に私は震えた、ベアトリスがカルロス・アルヘンティーノに宛てた、猥褻で、信じがたく

目を閉じ──開けた。すると私はアレフを見た。 私は今、物語の言いようのない中心に到達する──ここに、作家としての私の絶望が始まる。 [...] 踏み段の下、右へ寄ったところに、ほとんど耐えがたい光を放つ、小さな虹色の球体を見た。最初はそれが回転していると思った──のちに、その動きは内部に閉じ込められていた眩暈のするような光景が生み出す錯覚にすぎないと理解した。アレフの直径は二、三センチほどだろうが、宇宙空間はそこに、寸分の減じることもなく存在した。いかなるものも──例えば鏡の中の月──それは、無限の存在だった。というのも、私はそれを宇宙のあらゆる地点において、はっきりと見たからである。 人で満ちた海を見た。朝と夕を見た。アメリカの群衆を見た。黒いピラミッドの中心にある、銀色の蜘蛛の巣を見た。崩壊する迷宮を見た──それはロンドンだった。私を鏡のように凝視する、果てしなく続く無数の目を見た。地上のあらゆる鏡を見たが、いずれも私を映さなかった。ソレール通りの裏庭に、三十年前にフライ・ベントスの玄関口で見たのと同じ、敷瓦を見た。房、雪、たばこ、金属の筋、蒸気を見た。膨らんだ赤道砂漠とその一粒一粒の砂までを見た。インヴァネスで、決して忘れることのない女を見た。荒々しい髪、誇り高い身体を見、胸を蝕む癌を見た。かつて木のあった、歩道の渇いた土のうえにできた、円い跡を見た。アドロゲの一軒の別荘を見た。フィレモン・ホランド訳のプリニウスの、最初の英訳書の一冊を見た。同時に各頁の各文字を見た──子供のころ、私は閉じた本の文字が夜に混ざり合って、失われないことに驚嘆したものだ──。夜と昼が同時に存在するのを見た。まるで、ケレタロの夕暮れが、ベンガルの薔薇の色を反映しているかのように見えた。誰もいない自分の寝室を見た。アルクマールの戸棚の中で、二つの鏡の間に置かれ、無限に増殖する地球儀を見た。鬣をなびかせる馬たちを、夜明けのカスピ海の浜で見た。手の繊細な骨格を見た。戦いの生存者たちが絵葉書を送っているのを見た。ミルザプールのショーウィンドウに、スペインのカードが置かれているのを見た。温室の床に斜めに落ちるシダの影を見た。虎、ピストン、バイソン、波濤、軍隊を見た。地上に存在するすべての蟻を見た。ペルシャのアストロラーベを見た。机の引き出しの中で──その筆跡に私は震えた、ベアトリスがカルロス・アルヘンティーノに宛てた、猥褻で、信じがたくPOST

ひとつの文のように── 隙間という隙間もなく、 すべてが自らを包みこみ、 そして、昼の気配のあらゆる侵入に 気密に閉じられた文のように。 ただ、自身の均衡と静けさ── その重みと尺度、 そのリズムと時間を 確かに保つことだけを意図して。 ──気息と唾液の愛の力によって 互いに結びつけられた言葉たちが、 どんな断絶の誘惑にも 抗って保ちうるのだと 知りながら。

ひとつの文のように── 隙間という隙間もなく、 すべてが自らを包みこみ、 そして、昼の気配のあらゆる侵入に 気密に閉じられた文のように。 ただ、自身の均衡と静けさ── その重みと尺度、 そのリズムと時間を 確かに保つことだけを意図して。 ──気息と唾液の愛の力によって 互いに結びつけられた言葉たちが、 どんな断絶の誘惑にも 抗って保ちうるのだと 知りながら。POST

朝の朗読配信をした。 リクエストをいただいて、 有島武郎『一房の葡萄』を読んだ。 港町から眺める海の青色、絵具の藍色と深紅色、羞恥に染まる頬の赤色、巧く絵に描けなかった港の景色を眺めながら頬張る先生がくれた葡萄の紫色、大好きな先生のリンネルの着物と伸びる手の白色、仲直りした二人に分けるため葡萄の房を切る鋏の銀色。 きびきびして、あざやかな色彩が目に映るよう。散りばめられた主題的な色の調子は、まるで画面の中で順々に点灯していく照明のように、物語の核心へ向かって収束していく、そして短編の最後に現れる──いまではどこにも存在しない大理石のように白い美しい手。 仲直りのしるしとして葡萄の房が鋏で切り落とされる場面──ひらめく一瞬は、映像表現のスローモーションを思わせて鮮やかだ。その輝きが朗読する時を断ち切り、わたしを朝へと連れ戻した。 気がつけば、たしかに季節はもう深い秋だね。 すてきなテキストを読ませてくれてありがとう。

朝の朗読配信をした。 リクエストをいただいて、 有島武郎『一房の葡萄』を読んだ。 港町から眺める海の青色、絵具の藍色と深紅色、羞恥に染まる頬の赤色、巧く絵に描けなかった港の景色を眺めながら頬張る先生がくれた葡萄の紫色、大好きな先生のリンネルの着物と伸びる手の白色、仲直りした二人に分けるため葡萄の房を切る鋏の銀色。 きびきびして、あざやかな色彩が目に映るよう。散りばめられた主題的な色の調子は、まるで画面の中で順々に点灯していく照明のように、物語の核心へ向かって収束していく、そして短編の最後に現れる──いまではどこにも存在しない大理石のように白い美しい手。 仲直りのしるしとして葡萄の房が鋏で切り落とされる場面──ひらめく一瞬は、映像表現のスローモーションを思わせて鮮やかだ。その輝きが朗読する時を断ち切り、わたしを朝へと連れ戻した。 気がつけば、たしかに季節はもう深い秋だね。 すてきなテキストを読ませてくれてありがとう。

彼(ら)は居ても、居なくても同じだけ存在感をもつ。出入りは自由で、わたしが眠っているといつの間にか、やって来て、お腹のうえや、腕のあいだにまるくなって、喉をごろごろと鳴らす。増えることも自在であって、真夜中の星空のように、輝いて増殖する。そんなときのわたしは、彼(ら)の世話に大忙しである。街灯の下に降り積もる雪になって、降ったりもする。そんな日はたいへん綺麗である。かたまってまたひとつになって、消えて、また降る。しろい彼(ら)は。時には死者の雰囲気をもっているので、いまは居ない妹の魂を運んでやって来るのである。そんなときは、わたしもひっそりと涙をながす。きづくと眠り込んでしまう。起きる彼れ(ら)は星空に帰っている。

彼(ら)は居ても、居なくても同じだけ存在感をもつ。出入りは自由で、わたしが眠っているといつの間にか、やって来て、お腹のうえや、腕のあいだにまるくなって、喉をごろごろと鳴らす。増えることも自在であって、真夜中の星空のように、輝いて増殖する。そんなときのわたしは、彼(ら)の世話に大忙しである。街灯の下に降り積もる雪になって、降ったりもする。そんな日はたいへん綺麗である。かたまってまたひとつになって、消えて、また降る。しろい彼(ら)は。時には死者の雰囲気をもっているので、いまは居ない妹の魂を運んでやって来るのである。そんなときは、わたしもひっそりと涙をながす。きづくと眠り込んでしまう。起きる彼れ(ら)は星空に帰っている。

短い冬のあいだだけ、ホームレスだった頃。 恋人が泊まっていいよと連絡をくれたのだけど、なんだか悪くて断った。ホームレスといっても、じっさいに外に寝たのは一回きり。 しかも、ひとに話しかけられて怯えてしまい、神社のお賽銭箱の後ろに隠れていたのだ。多くの夜はバーや喫茶店で時を過ごし、昼の環状線のソファで眠っていた。 降雪の日にホームレスの方はどんな風にスープを温め、どのように身体を暖めて夜眠るのだろう。わたしはそんな体験のあとでも、知らないままだ。 時には、彼女が夢に出て、眠りに就こうとしながら、彼女がよく話してくれた、小さい頃デンマークへ連れて行かれた出来事について、再び語ったりした。 もっと正確に言えば、それは“デンマークという国”の話ではなかった。それは端的に云えば、彼女が言葉を覚え、はじめて好きになった男の子と踊り、ひとが死ぬのを見た、小さな土地でのことだった。 それは彼女が永遠に失った場所であり、人が何かを失ったとき、そのことを忘れることができなくなる。その意味での喪失だった。 彼女はほかの話もしたが、ほとんどいつも同じ話を繰り返していた。 そしてわたしは、彼女の部屋にいると、彼女が歩いた道、小道、樹々、人々、動物たちが見えるような気がするようになった。 深夜営業の喫茶店はほとんど見つからない。わたしは"御代わり自由"のコーヒーを頼み、本を読み耽り、定期的にウェイターさんが淹れてくれるコーヒーを飲み、空が白んで来るのを待った。 勘定のときには、わたしがいつもスタンプカードを失くすので、彼女は失くした分のスタンプを新しいカードに押印してくれるのだった。

短い冬のあいだだけ、ホームレスだった頃。 恋人が泊まっていいよと連絡をくれたのだけど、なんだか悪くて断った。ホームレスといっても、じっさいに外に寝たのは一回きり。 しかも、ひとに話しかけられて怯えてしまい、神社のお賽銭箱の後ろに隠れていたのだ。多くの夜はバーや喫茶店で時を過ごし、昼の環状線のソファで眠っていた。 降雪の日にホームレスの方はどんな風にスープを温め、どのように身体を暖めて夜眠るのだろう。わたしはそんな体験のあとでも、知らないままだ。 時には、彼女が夢に出て、眠りに就こうとしながら、彼女がよく話してくれた、小さい頃デンマークへ連れて行かれた出来事について、再び語ったりした。 もっと正確に言えば、それは“デンマークという国”の話ではなかった。それは端的に云えば、彼女が言葉を覚え、はじめて好きになった男の子と踊り、ひとが死ぬのを見た、小さな土地でのことだった。 それは彼女が永遠に失った場所であり、人が何かを失ったとき、そのことを忘れることができなくなる。その意味での喪失だった。 彼女はほかの話もしたが、ほとんどいつも同じ話を繰り返していた。 そしてわたしは、彼女の部屋にいると、彼女が歩いた道、小道、樹々、人々、動物たちが見えるような気がするようになった。 深夜営業の喫茶店はほとんど見つからない。わたしは"御代わり自由"のコーヒーを頼み、本を読み耽り、定期的にウェイターさんが淹れてくれるコーヒーを飲み、空が白んで来るのを待った。 勘定のときには、わたしがいつもスタンプカードを失くすので、彼女は失くした分のスタンプを新しいカードに押印してくれるのだった。

──ヘミングウェイがさ、男たちは絶望から逃げるためにインテリになるんだ、って言ったんだよ。 ──いやいや、やつらがインテリになるのは、絶望からじゃなくて、“ビビって”逃げるためだろ。 チャールズ・ブコウスキー 『どこでもない南のほうで』 ※美術はボナ・ド・マンディアルグ

──ヘミングウェイがさ、男たちは絶望から逃げるためにインテリになるんだ、って言ったんだよ。 ──いやいや、やつらがインテリになるのは、絶望からじゃなくて、“ビビって”逃げるためだろ。 チャールズ・ブコウスキー 『どこでもない南のほうで』 ※美術はボナ・ド・マンディアルグPOST

correspondence(書簡、通信、調和、照応)は多くの事柄にとって唯一可能な表現形式である。その前提の違いにより、ある程度まで苦悩や情感の響きを受け入れ、保証することができる。 ヴォルター・ベンヤミン …善きもの、神聖なものはすべて祝われなければならない。ゆえに、私たちのcorrespondenceは、あまり長く途絶えてはいけない。 フェルディナント・ヘルダーリン

correspondence(書簡、通信、調和、照応)は多くの事柄にとって唯一可能な表現形式である。その前提の違いにより、ある程度まで苦悩や情感の響きを受け入れ、保証することができる。 ヴォルター・ベンヤミン …善きもの、神聖なものはすべて祝われなければならない。ゆえに、私たちのcorrespondenceは、あまり長く途絶えてはいけない。 フェルディナント・ヘルダーリン

…逃げ去る王に、王たりうるのだろうか。 苦しみの中に留まらぬ王は、まだ王なのだろうか。 ──そして新たな問い 共に涙を流さぬ王は? 民とともに死なぬ王は? イルダ・イルスト 恋をしている人は、神がその人を見つめるように、相手を最も美しいかたちで見い出すのかもしれない、とかつて私は考えたことがあります。 ホルヘ・ルイス・ボルヘス シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』のなかに、「人間の存在に飢渇して死なんばかりである神」について述べる一節があったはずだ。 「鏡に映して自分の姿を見るために人間の誕生を求めた神」。 水鏡にうつる自らの姿に見入ったために、入水するナルシスの姿を連想する。 恋する人の眼差しに、自分の姿を──ほんとうのこの〈私〉の顔貌を求めるわたし達のように(?)。 ※写真は一面にメフィストフェレスが、もう一面にはマルガレーテが木彫りされた十九世紀の彫刻。

…逃げ去る王に、王たりうるのだろうか。 苦しみの中に留まらぬ王は、まだ王なのだろうか。 ──そして新たな問い 共に涙を流さぬ王は? 民とともに死なぬ王は? イルダ・イルスト 恋をしている人は、神がその人を見つめるように、相手を最も美しいかたちで見い出すのかもしれない、とかつて私は考えたことがあります。 ホルヘ・ルイス・ボルヘス シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』のなかに、「人間の存在に飢渇して死なんばかりである神」について述べる一節があったはずだ。 「鏡に映して自分の姿を見るために人間の誕生を求めた神」。 水鏡にうつる自らの姿に見入ったために、入水するナルシスの姿を連想する。 恋する人の眼差しに、自分の姿を──ほんとうのこの〈私〉の顔貌を求めるわたし達のように(?)。 ※写真は一面にメフィストフェレスが、もう一面にはマルガレーテが木彫りされた十九世紀の彫刻。POST

深夜の配信にアクセスすると、歌っていた女性は挨拶にも応えず、歌いつづけて、途中で泣き出して、泣き出したまま歌って、終わりも告げずに配信を打ち切った。 彼女にとって、わたし(参加者)も、配信もなにものでもなかったのかも。ひとはことばを介して体験をひとつの個性的な経験に変える。この"礼儀"を彼女は無視した。だから、いまでも配信は終わらないまま、わたしの心を焼きつづけてる。

深夜の配信にアクセスすると、歌っていた女性は挨拶にも応えず、歌いつづけて、途中で泣き出して、泣き出したまま歌って、終わりも告げずに配信を打ち切った。 彼女にとって、わたし(参加者)も、配信もなにものでもなかったのかも。ひとはことばを介して体験をひとつの個性的な経験に変える。この"礼儀"を彼女は無視した。だから、いまでも配信は終わらないまま、わたしの心を焼きつづけてる。

『かつて私であった神の喪失』 あの夕べ、 それはひとつの熾火(おきび)であり、 のちには──空気ぜんたいが すみれ色に変わった。 白い光が 天をきらめきわたった。 そして私は闇。          長い夜。 そして夜明けが訪れたとき、 からだから影が 生まれたのだった。 フランシスコ・ブリネス

『かつて私であった神の喪失』 あの夕べ、 それはひとつの熾火(おきび)であり、 のちには──空気ぜんたいが すみれ色に変わった。 白い光が 天をきらめきわたった。 そして私は闇。          長い夜。 そして夜明けが訪れたとき、 からだから影が 生まれたのだった。 フランシスコ・ブリネス

Tant de mots sont synonymes d’adieu, tant de visages n’ont pas d’équivalent. こんなにも多くの言葉が別れ(アデュー)の同義語(シノニム)であり、様々な顔貌が等価物をもたない。 (...) Cet instant où la beauté, après s’être longtemps fait attendre surgit des choses communes, traverse notre champ radieux, lie tout ce qui peut être lié, allume tout ce qui doit être allumé de notre gerbe de ténèbres. その瞬間、美が長いあいだ身を潜めた末、ふいに日常的なもののなかに姿を現し、私たちの陽の射す野原を横切り、ありとあらゆるつながりうるものをつなぎ、私たちの闇の穂束 gerbe de ténèbre を輝かせるべき火花を灯す。 ルネ・シャール

Tant de mots sont synonymes d’adieu, tant de visages n’ont pas d’équivalent. こんなにも多くの言葉が別れ(アデュー)の同義語(シノニム)であり、様々な顔貌が等価物をもたない。 (...) Cet instant où la beauté, après s’être longtemps fait attendre surgit des choses communes, traverse notre champ radieux, lie tout ce qui peut être lié, allume tout ce qui doit être allumé de notre gerbe de ténèbres. その瞬間、美が長いあいだ身を潜めた末、ふいに日常的なもののなかに姿を現し、私たちの陽の射す野原を横切り、ありとあらゆるつながりうるものをつなぎ、私たちの闇の穂束 gerbe de ténèbre を輝かせるべき火花を灯す。 ルネ・シャールPOST

『幌馬車』 大晦日の晩に 幌馬車が通った 珈琲いろの馬が 鬣そろへ お客ものせず 灯もつけず 今年の夢を 送りの馬車か 霙の辻で のぞいて見れば うすむらさきの 褥のうえに しをれた薔薇と 指輪がひとつ。 (仏訳 en français ) Un Char Couvert Au soir de la Saint-Sylvestre un char couvert passa. Un cheval couleur de café, la crinière lisse, sans passager, sans lanterne, était-ce le wagon portant les rêves de l’année ? À la croisée, sous la neige mêlée, j’ai regardé : sur une couche d’un mauve très pâle, une rose flétrie et une seule bague. 西條 八十 Saijō Yaso

『幌馬車』 大晦日の晩に 幌馬車が通った 珈琲いろの馬が 鬣そろへ お客ものせず 灯もつけず 今年の夢を 送りの馬車か 霙の辻で のぞいて見れば うすむらさきの 褥のうえに しをれた薔薇と 指輪がひとつ。 (仏訳 en français ) Un Char Couvert Au soir de la Saint-Sylvestre un char couvert passa. Un cheval couleur de café, la crinière lisse, sans passager, sans lanterne, était-ce le wagon portant les rêves de l’année ? À la croisée, sous la neige mêlée, j’ai regardé : sur une couche d’un mauve très pâle, une rose flétrie et une seule bague. 西條 八十 Saijō YasoPOST

「失望とは、幻想が消えたあとに、現実をありのまま映し出す鏡のようなものだ。 想像の気まぐれが退き、真実が静かで、しかしどこか耳に痛いほどおだやかな姿を現すたび、私はつい思ってしまう。 ──あの方向にこそ自分の生きるべき道がある、と信じたあのとき、 事の本質を見抜くはずの私の心はいったいどこにあったのだろう、と。」 この問いに何度も戻ってきてしまう自分に気づいて、与え続けることの価値を疑問に思うんだ。だって、私を消耗させるだけでその意味を理解してくれない人たちに、良いものならなんだって受け取る資格があると思い込んでいる彼らに対してさ。ほとんどの人が不公平な秤を持っていることを、ときおり忘れてしまう。一度あなたを傷つけたものを、彼らは二度、三度と繰り返すのを躊躇しないってことを。

「失望とは、幻想が消えたあとに、現実をありのまま映し出す鏡のようなものだ。 想像の気まぐれが退き、真実が静かで、しかしどこか耳に痛いほどおだやかな姿を現すたび、私はつい思ってしまう。 ──あの方向にこそ自分の生きるべき道がある、と信じたあのとき、 事の本質を見抜くはずの私の心はいったいどこにあったのだろう、と。」 この問いに何度も戻ってきてしまう自分に気づいて、与え続けることの価値を疑問に思うんだ。だって、私を消耗させるだけでその意味を理解してくれない人たちに、良いものならなんだって受け取る資格があると思い込んでいる彼らに対してさ。ほとんどの人が不公平な秤を持っていることを、ときおり忘れてしまう。一度あなたを傷つけたものを、彼らは二度、三度と繰り返すのを躊躇しないってことを。

過集中で、手が止まらない。休みかたが分からない。疲労にきづかない。進捗が落ちて、しばらくして、ようやく数日寝ていないこと、食べていないことに気づく。つづけるために休もう。たいせつな人を裏切ることじゃない、初心を忘れないためにこそ、休むことを覚えよう。でも、ほんとは、わたしが休むとき、あなたが傍にいてほしい。こわくてたまらないから。生きているのは悪いことじゃないって、云ってほしい。どんなことだってするよ。

過集中で、手が止まらない。休みかたが分からない。疲労にきづかない。進捗が落ちて、しばらくして、ようやく数日寝ていないこと、食べていないことに気づく。つづけるために休もう。たいせつな人を裏切ることじゃない、初心を忘れないためにこそ、休むことを覚えよう。でも、ほんとは、わたしが休むとき、あなたが傍にいてほしい。こわくてたまらないから。生きているのは悪いことじゃないって、云ってほしい。どんなことだってするよ。

この世界のただ一つの生き物を選び、その生き物の物語を語れば、それは地球の物語となるだろう、と彼はふと思う。そのただ一つの生き物が、すべてを語ってくれるのだ。世界の全歴史を、そしておそらく世界のすべての未来を。 サマンサ・ハーヴェイ『オービタル』

この世界のただ一つの生き物を選び、その生き物の物語を語れば、それは地球の物語となるだろう、と彼はふと思う。そのただ一つの生き物が、すべてを語ってくれるのだ。世界の全歴史を、そしておそらく世界のすべての未来を。 サマンサ・ハーヴェイ『オービタル』POST

言葉というものは、もとより不十分であり、しかもその奥に重ね合わせのような二重性を宿している、ひとつの言葉で嘘をつくこともできれば、同じ言葉で真実を語ることもできる、そして私たちはその矛盾を承知のうえで、なお言葉を手放すことができないのだ…… ジョゼ・サラマーゴ 人間に言葉が与えられたのは、ほんとうの思いを覆い隠すためにほかならない。 スタンダール『赤と黒』 わたしは言葉が好きだ──意味のない言葉を口にすることこそ、わたしに許された大いなる自由だ。理解されるかどうかは、わたしにはほとんど問題ではない。眩しいばかりの音節の衝撃がほしいのだ。悪しき言葉の毒々しさがほしいのだ。すべては、言葉の中にある。 クラリッセ・リスペクトル『生命の息吹』 私は、アンゴル・Xの非合理的な神秘の声に耳を傾けようと努める── 理解しないこと──はあまりにも広大で、あらゆる理解を軽々と超えていた。 理解には必ず限界がある。しかし、理解しないことには境界などなく、 無限の彼方へ、神のもとへと、わたしを誘うのだった。 クラリッセ・リスペクトル『見習いの時──悦びの書』

言葉というものは、もとより不十分であり、しかもその奥に重ね合わせのような二重性を宿している、ひとつの言葉で嘘をつくこともできれば、同じ言葉で真実を語ることもできる、そして私たちはその矛盾を承知のうえで、なお言葉を手放すことができないのだ…… ジョゼ・サラマーゴ 人間に言葉が与えられたのは、ほんとうの思いを覆い隠すためにほかならない。 スタンダール『赤と黒』 わたしは言葉が好きだ──意味のない言葉を口にすることこそ、わたしに許された大いなる自由だ。理解されるかどうかは、わたしにはほとんど問題ではない。眩しいばかりの音節の衝撃がほしいのだ。悪しき言葉の毒々しさがほしいのだ。すべては、言葉の中にある。 クラリッセ・リスペクトル『生命の息吹』 私は、アンゴル・Xの非合理的な神秘の声に耳を傾けようと努める── 理解しないこと──はあまりにも広大で、あらゆる理解を軽々と超えていた。 理解には必ず限界がある。しかし、理解しないことには境界などなく、 無限の彼方へ、神のもとへと、わたしを誘うのだった。 クラリッセ・リスペクトル『見習いの時──悦びの書』

燃える図書館  ──ジョルジュ・ブラックへ この大砲の口から雪が降る。それは私たちの頭の中の地獄だった。同時に、指先には春がある。それは新たに踏みしめる歩み、大地の恋、茂る草々。 精神もまた、すべてのものと同じく、震えた。 鷲は未来にある。 魂をかけるすべての行為は、たとえ魂が無知であろうとも、結末として悔恨や悲しみをもたらす。それを受け入れなければならない。 書く──その始まりはどのように、私に訪れたのだろうか。まるで冬の窓に舞い降りる鳥の羽毛のように。瞬く間に、炉の中でパチパチ音を鳴らす火種たちの争いが始まる──そして、それは未だ終わりを迎えてはいない。

燃える図書館  ──ジョルジュ・ブラックへ この大砲の口から雪が降る。それは私たちの頭の中の地獄だった。同時に、指先には春がある。それは新たに踏みしめる歩み、大地の恋、茂る草々。 精神もまた、すべてのものと同じく、震えた。 鷲は未来にある。 魂をかけるすべての行為は、たとえ魂が無知であろうとも、結末として悔恨や悲しみをもたらす。それを受け入れなければならない。 書く──その始まりはどのように、私に訪れたのだろうか。まるで冬の窓に舞い降りる鳥の羽毛のように。瞬く間に、炉の中でパチパチ音を鳴らす火種たちの争いが始まる──そして、それは未だ終わりを迎えてはいない。POST

永遠 éternité とは、抱擁 étreinte を綴り直した anagramme ものだ。 アンリ・ド・モンテルラン _______ 夜ごと、流されるインクは名も知らぬ夢のかけらを運ぶ。まだ生まれていない夢、かすかに生きた夢、いずれ訪れる夢。夜には、あなたが読む言葉がそっとあなたを覗き込み、あなたが書きつける一行があなた自身をそっと形作る。段落は宙を漂う。それは、わずかに顫え、闇の奥へと折れ曲がり、あなたもまたそれに合わせて、かがみ、つまずくように闇へとその身を沈めるだろう。 _______ 永遠を宿す者は、滅びを抱かねばならない。 アンナ・ド・ノアイユ

永遠 éternité とは、抱擁 étreinte を綴り直した anagramme ものだ。 アンリ・ド・モンテルラン _______ 夜ごと、流されるインクは名も知らぬ夢のかけらを運ぶ。まだ生まれていない夢、かすかに生きた夢、いずれ訪れる夢。夜には、あなたが読む言葉がそっとあなたを覗き込み、あなたが書きつける一行があなた自身をそっと形作る。段落は宙を漂う。それは、わずかに顫え、闇の奥へと折れ曲がり、あなたもまたそれに合わせて、かがみ、つまずくように闇へとその身を沈めるだろう。 _______ 永遠を宿す者は、滅びを抱かねばならない。 アンナ・ド・ノアイユPOST

雨と私の間には、まばゆいばかりの契約が交わされている。その契約の記憶から、ときおり燦々と降り注ぐ太陽の下に雨が降る。 Entre la pluie et moi il a été passé un pacte éblouissant et c'est en souvenir de ce pacte qu'il pleut parfois en plein soleil. アンドレ・ブルトン『溶ける魚』

雨と私の間には、まばゆいばかりの契約が交わされている。その契約の記憶から、ときおり燦々と降り注ぐ太陽の下に雨が降る。 Entre la pluie et moi il a été passé un pacte éblouissant et c'est en souvenir de ce pacte qu'il pleut parfois en plein soleil. アンドレ・ブルトン『溶ける魚』

『光に触れる』 満月の夜に 銀河を見つめてみよ すると、そこに流れる川にきづくだろう その支流はあなたの腕 その河口はあなたの胸 今日、空は自らの詩を 白いインクで書いた それを「雪」と呼んだ。 あなたが老いてゆくあいだに 夢は若返る 夢は歩みながら大きくなり 子ども時代へと進む 夢は牝馬であり 遠くへ私たちを運ぶ けれど決して動かぬままに 雲は旅に疲れて 最も近い川へ降り そのシャツを洗おうとする だが足を水に浸した途端 シャツは溶けて 消え失せる 一輪のバラが寝床から起き 朝の手を取り 目をこすりにかかる 椰子の木は幹で語り バラはかおり、語る 風と空間は 手を取り合って放浪する 虹とは何か? 天と地との婚姻 一本の縄に編まれたもの 秋の斜面を歩き 春の腕に寄りかかる 空もまた泣く だがその涙を 地平線のスカーフでぬぐう 疲労が訪れると 風は空間の絨毯を広げ そこに横たわる[+]

『光に触れる』 満月の夜に 銀河を見つめてみよ すると、そこに流れる川にきづくだろう その支流はあなたの腕 その河口はあなたの胸 今日、空は自らの詩を 白いインクで書いた それを「雪」と呼んだ。 あなたが老いてゆくあいだに 夢は若返る 夢は歩みながら大きくなり 子ども時代へと進む 夢は牝馬であり 遠くへ私たちを運ぶ けれど決して動かぬままに 雲は旅に疲れて 最も近い川へ降り そのシャツを洗おうとする だが足を水に浸した途端 シャツは溶けて 消え失せる 一輪のバラが寝床から起き 朝の手を取り 目をこすりにかかる 椰子の木は幹で語り バラはかおり、語る 風と空間は 手を取り合って放浪する 虹とは何か? 天と地との婚姻 一本の縄に編まれたもの 秋の斜面を歩き 春の腕に寄りかかる 空もまた泣く だがその涙を 地平線のスカーフでぬぐう 疲労が訪れると 風は空間の絨毯を広げ そこに横たわる[+]

『星夜』 星夜(せいや)よ、 その薄衣(うすごろも)のかげに、 薫る(かおる)風にそよぎ、 嘆く琴の響きに耳を澄ませつつ、 われは夢みる、逝きし恋を。 静けき(しずけき)哀しみは、 わが胸の底にひらき、 夢みる森の木々のあいだに、 汝(な)が魂(たま)のときめきを聴く。 星夜よ、 その薄衣のかげに、 薫る風にそよぎ、 嘆く琴の響きに耳を澄ませつつ、 われは夢みる、逝きし恋を。 泉(いずみ)のほとりにふたたび見る、 空の色は、蒼きまなざし。 この薔薇は、汝が吐息、 この星々は、汝が瞳。 テオドール・バンヴィル

『星夜』 星夜(せいや)よ、 その薄衣(うすごろも)のかげに、 薫る(かおる)風にそよぎ、 嘆く琴の響きに耳を澄ませつつ、 われは夢みる、逝きし恋を。 静けき(しずけき)哀しみは、 わが胸の底にひらき、 夢みる森の木々のあいだに、 汝(な)が魂(たま)のときめきを聴く。 星夜よ、 その薄衣のかげに、 薫る風にそよぎ、 嘆く琴の響きに耳を澄ませつつ、 われは夢みる、逝きし恋を。 泉(いずみ)のほとりにふたたび見る、 空の色は、蒼きまなざし。 この薔薇は、汝が吐息、 この星々は、汝が瞳。 テオドール・バンヴィル

大いなる潮(うしお) だから 私たちは約束していたのだ 何年も前から この夜のために そして 何も──太陽も 雨も 愛の嵐も さらには 背に影をかかえて 誰もがひきずる あの涙の古い袋でさえも── 何ひとつ この日を忘れさせることはなかった 大いなる潮の その刻限を それは部屋の中へと満ちあがり 夢見る者たちの身体のうえを 一枚のシーツのように転がってゆく 何も たとえ生きたまま さらわれるのではという恐れさえも すべてを もう一度 始め直す その瞬間を 阻むことはできなかった。 ギィ・ゴフェット

大いなる潮(うしお) だから 私たちは約束していたのだ 何年も前から この夜のために そして 何も──太陽も 雨も 愛の嵐も さらには 背に影をかかえて 誰もがひきずる あの涙の古い袋でさえも── 何ひとつ この日を忘れさせることはなかった 大いなる潮の その刻限を それは部屋の中へと満ちあがり 夢見る者たちの身体のうえを 一枚のシーツのように転がってゆく 何も たとえ生きたまま さらわれるのではという恐れさえも すべてを もう一度 始め直す その瞬間を 阻むことはできなかった。 ギィ・ゴフェットPOST

『青は音を立てない。』 おずおずとした色。 裏もなく、兆しもなく、企てもない。 黄や赤のように、視線を急襲することはない。 それはむしろ、ゆるやかに惹き寄せ、 なだめ、 遅れて迎える。 そのうちに──視線は沈み、 気づかぬまま、溺れている。 青は、消失にふさわしい色。 死のための色。 解放の色。 身体を脱ぎ捨てた魂の色。 血がほとばしり、 臓腑は空となり、 思考の家具は──運び去られた。 青は、果てなく逃れる。 それは、もはや色ではない。 響き。気候。 大気の裂け目。 光の層の積み重なり。 虚無に虚無を重ねて生まれた彩。 頭のなかで──天空で── おなじように、移ろい、透きとおる。 呼吸のなかの空気。 顔をわずかに揺らす虚ろの貌。 わたしたちが通り抜ける空間。 それは、地上の青。 近すぎるがゆえに見えず、 わたしたちと一体となる青。 身ぶりと声をまとい、 閉ざされた部屋にも、 灯りを絶った闇にも、 無感の衣のように在る。 ジャン=ミシェル・モルポワ

『青は音を立てない。』 おずおずとした色。 裏もなく、兆しもなく、企てもない。 黄や赤のように、視線を急襲することはない。 それはむしろ、ゆるやかに惹き寄せ、 なだめ、 遅れて迎える。 そのうちに──視線は沈み、 気づかぬまま、溺れている。 青は、消失にふさわしい色。 死のための色。 解放の色。 身体を脱ぎ捨てた魂の色。 血がほとばしり、 臓腑は空となり、 思考の家具は──運び去られた。 青は、果てなく逃れる。 それは、もはや色ではない。 響き。気候。 大気の裂け目。 光の層の積み重なり。 虚無に虚無を重ねて生まれた彩。 頭のなかで──天空で── おなじように、移ろい、透きとおる。 呼吸のなかの空気。 顔をわずかに揺らす虚ろの貌。 わたしたちが通り抜ける空間。 それは、地上の青。 近すぎるがゆえに見えず、 わたしたちと一体となる青。 身ぶりと声をまとい、 閉ざされた部屋にも、 灯りを絶った闇にも、 無感の衣のように在る。 ジャン=ミシェル・モルポワPOST

『消えてゆく鳥』 あの鳥は、ひるまに現れる。 もっとも白いひるまに。鳥よ。 羽ばたき、舞い上がる。 羽ばたき、消えてゆく。 羽ばたき、ふたたび現れる。 降り立つ。 そしてもう、いない。 ひとつの羽ばたきで、白い空間に消え去った。 これが、わたしに馴れ親しんだ鳥。 わたしの小さな中庭の空を、満たしにくる鳥。 満たす? そのありさまを見れば…… わたしは、そこに留まる。 ただ見つめ、 その現れに魅せられ、 その消えゆきに魅せられ。 アンリ・ミショー

『消えてゆく鳥』 あの鳥は、ひるまに現れる。 もっとも白いひるまに。鳥よ。 羽ばたき、舞い上がる。 羽ばたき、消えてゆく。 羽ばたき、ふたたび現れる。 降り立つ。 そしてもう、いない。 ひとつの羽ばたきで、白い空間に消え去った。 これが、わたしに馴れ親しんだ鳥。 わたしの小さな中庭の空を、満たしにくる鳥。 満たす? そのありさまを見れば…… わたしは、そこに留まる。 ただ見つめ、 その現れに魅せられ、 その消えゆきに魅せられ。 アンリ・ミショー

『やわらかく とてもやわらかいもの』 もっとも美しい可能性のひとつは 真実はガラスでできている、ということ けれども、その形は槌のようで それを用いたとたん、あなたは砕いてしまう 考えてごらん!砕けたそれは 手のなかではなく、足もとに散らばっている 決して抱きとめることはできない、娘よ それは戻ってはこない けれども、たしかにそこにある 物の実体が何であろうと構わない 夜の空に浮かぶ 静かで白い、すばらしい雲のように メアリー・ルーフル

『やわらかく とてもやわらかいもの』 もっとも美しい可能性のひとつは 真実はガラスでできている、ということ けれども、その形は槌のようで それを用いたとたん、あなたは砕いてしまう 考えてごらん!砕けたそれは 手のなかではなく、足もとに散らばっている 決して抱きとめることはできない、娘よ それは戻ってはこない けれども、たしかにそこにある 物の実体が何であろうと構わない 夜の空に浮かぶ 静かで白い、すばらしい雲のように メアリー・ルーフルPOST

秘められた海 誰も見つめぬとき、 海はもはや海ではなく、 それは、誰も私たちを見ないときの 私たち自身のありようとなる。 そこには別の魚が泳ぎ、 別の波もまた打ち寄せる。 それは海そのものの海、 そしてそれを夢見る者たちのための海、 ここで私がそうしているように。 ジュール・シュペルヴィエル

秘められた海 誰も見つめぬとき、 海はもはや海ではなく、 それは、誰も私たちを見ないときの 私たち自身のありようとなる。 そこには別の魚が泳ぎ、 別の波もまた打ち寄せる。 それは海そのものの海、 そしてそれを夢見る者たちのための海、 ここで私がそうしているように。 ジュール・シュペルヴィエルPOST

島と家屋 私は夢みる──あの島に、かつての流寓の詩人が夢みたごとく。 そこにはいつも澄みわたり、いつも星かがやく空。 そのまわりを囲むのは、幸いの海──嵐を知らず、 詩人の声に応え、永遠に静まりかえった波。 野にあっては、冬に侵されぬ床夏がつづき、 いたるところにやわらかくも誇り高いものが漂う。 それは愛に似て、また栄光に似ている。 神の泉はひらかれ、そこにペガソスは口を寄せ、 海が守る館のそばには、ひときわ高く、 不死なる月桂樹が生きて立つ。 ──それは、ほろ苦き葉をいまだ見せる樹、 汝のこめかみに、ウェルギリウスよ、 また汝の額に、ホメロスよ! アンリ・ド・レニエ

島と家屋 私は夢みる──あの島に、かつての流寓の詩人が夢みたごとく。 そこにはいつも澄みわたり、いつも星かがやく空。 そのまわりを囲むのは、幸いの海──嵐を知らず、 詩人の声に応え、永遠に静まりかえった波。 野にあっては、冬に侵されぬ床夏がつづき、 いたるところにやわらかくも誇り高いものが漂う。 それは愛に似て、また栄光に似ている。 神の泉はひらかれ、そこにペガソスは口を寄せ、 海が守る館のそばには、ひときわ高く、 不死なる月桂樹が生きて立つ。 ──それは、ほろ苦き葉をいまだ見せる樹、 汝のこめかみに、ウェルギリウスよ、 また汝の額に、ホメロスよ! アンリ・ド・レニエ

秋 雨の匂いが、子供の頃の記憶を呼びさます。 季節の最後の陽ざし。 七つのとき、どんなに嬉しかったろう。 長い、退屈な休みを終えて、 ようやく自分の家に帰れたのだから。 父も過ごした、あの古い教室。 潰された雀蜂の残骸が散らばっていた。 インクの匂い。木の匂い。白墨の粉。 夏じゅう積もった埃が、光のように舞っていた。 ──あの頃はよかった。 やわらかな霧、鳥の渡り、猟の気配。 風は校舎の軒を吹き抜けていった。 私はただ、掌の中に 赤い林檎をひとつ握りしめていた。 ルネ・ギィ・カドゥ

秋 雨の匂いが、子供の頃の記憶を呼びさます。 季節の最後の陽ざし。 七つのとき、どんなに嬉しかったろう。 長い、退屈な休みを終えて、 ようやく自分の家に帰れたのだから。 父も過ごした、あの古い教室。 潰された雀蜂の残骸が散らばっていた。 インクの匂い。木の匂い。白墨の粉。 夏じゅう積もった埃が、光のように舞っていた。 ──あの頃はよかった。 やわらかな霧、鳥の渡り、猟の気配。 風は校舎の軒を吹き抜けていった。 私はただ、掌の中に 赤い林檎をひとつ握りしめていた。 ルネ・ギィ・カドゥPOST